負けるシャツ

「シャツは消耗品」と言われます。シャツはジャケットやパンツよりも洗濯回数は圧倒的に多いですし、肌に近いところなので、蓄積するダメージが高いと言うことがあるのでしょう。

 

靴やジャケットは10年もの、20年ものを聞きますが、シャツについて同じような「使い込んだ」ケースはあまり聞いたことがないのもそのためでしょう。

 

そのため、シャツは質より量というか、この価格帯で、という方針のもと、ワードローブを揃える方もいらっしゃると思います。

私も同様にシャツを買い、これまで着てきました。

 

ところで、良いシャツの「良さ」はなんでしょうか。

生地のクオリティ?縫製の丁寧さ?

個人の好みとしてはいろいろあると思いますが、私は「型紙の良さ」だと思います。

ジャケットも同じように「型紙の良さ」つまり、自分の身体に合うかが大事ですし、靴もメーカー名より、まず自分の足に合うか、が大事です。

その点では何を今さら,と言う話ですが、シャツってピチピチに着るのでなければ、そこまでサイズを気にしなくても良いアイテムではないでしょうか。

襟が自分の首にフィットしているか、ジャケットを着たとき、ちゃんとシャツが覗いているか。

この辺りは気にされることはあるでしょう。しかし、それ以外はあまり……と考えている方も少なくないではないでしょうか。

シャツのデザインの面で考えると、胸板が厚い方、お腹が出ている方、いろんな方に着てもらえつつ、素肌に沿うことは無理難題になるでしょう。そのため、シャツシルエットは、スッキリ見えることが既成には求められ、それ以上となるとオーダーするステージになるのでしょう。

私の経験としては、正直これまで着てた鎌倉シャツなどの国内・海外シャツでそこまで型紙やパターンの違いを感じることはなく、それが不満でもないし、まあこんなものかな、と思っていました。むしろ、袖の長さなど、総合的なパターンとしては海外ブランドより鎌倉シャツの方が好みだったこともあり、鎌倉シャツで探してみてないようなものだったら、そのブランドで買うことを検討してました。

 

まあ、そんな感じで自分の中の「シャツの相場感」が出来上がっていたのですが、良い意味でそれを打ち崩す、フィット感を高めてくれる既成シャツを体験しました。

 

Les Lestonという大阪発のオーダー中心のブランドです。

 

なんと言ってもパターンがすごい!と思わせてくれ、バックも独特です。

シワ、のような生地の縫い寄せなどにより型に沿わせているのかな?とシロート目に思えますが、ジャケットの「肩に合う」がシャツでも体感したのは初めてです。(下画像は別メーカーシャツ)

海外の一流メーカーと同じような価格帯で決して安くないですが、シャツを着るだけでテンションが上がる唯一無二のブランドだと思いますし、made in Japanのシャツでここまでのレベル感を出してきたことにとても感動しました。

 

また、ブランドの思想が「どんどん着込んで欲しい」とのことで繊細な手縫いでなく機械縫いらしいのですが、そうした現代のドレスシーンの裏側のメンテナンスや使い続ける=ランニングも考えられている点がとても素敵です。

 

良い洋服は曲線だらけの身体に自然に沿って、かつさりげない主張をするものだと思いますが、トラッドスタイルにおいての良いシャツは「ネクタイやジャケットや、身体に対して存在感を消して、まるで負けているけど、強烈に支えてくれる」ものなのではないでしょうか。

実は夏のセールで手に入れたもので、おいそれと手に入れるレベルではないのですが、ぜひ手に入れていきたいですね。

 

再訪のグルメ

東京で1番推してるフレンチかもしれませんが、日本橋にあるボンヌターブルがとても気に入ってます。

ランチ・ディナーともに安くはないですが、もっと高い価格帯のフレンチに劣らない、和食のインスピレーションを感じるような「新しい」ひと皿や、盛り付けがあります。

4月のランチに訪れた時は以下のコースでした。


①季節のサラダ

定番のメニューですが、もちろん中身は季節で変わります。この時は柑橘フルーツ入りで、素材の味を活かしたサラダ。特にスイートポテト的なお芋さんが濃厚でした。


②ホワイトアスパラガスと卵黄ベースのソース

季節のホワイトアスパラガスを焼き、卵黄ベースながらもあっさりとしたソースでいただきます。アスパラガス前線と呼ばれるホワイトアスパラガスの旬が春にはあるのですが、皿の上の前線で春らしさを感じます。


イカの肝を使ったリゾット

上に乗ってるのは焼いたイカで、イカよ肝を使って黒くなったリゾットだそう。フレンチ一本というより、和食の炊き込みご飯的な出汁で、イカの旨みを感じれるひと皿です。

ちなみにアルコールペアリングだと、料理にあったアルコールドリンクを出してくれるのですが、この料理に対しては、ぬる燗の日本酒でした。

イワシとジャガイモのパイ包み

メインのパイ包みは、フレンチの王道料理ですが、包みがお肉だったり、ソースでおもくなりがちです。それを今回はイワシとジャガイモ、キャベツを中身とすることで、あっさり目な上に、ソースもマヨネーズベースをさらに軽やかにしまような味付けで出しています。見た目にそぐわず春らしい軽やかさがあって、いい意味で期待を裏切られます。


⑤柑橘とチョコアイス

アイスもさることながら、ワインゼリーと柑橘の組み合わせが相乗効果でこれも軽やかな一品でした。


⑥カステラ

お茶うけの甘味。柚子を乗せることであっさり目なんなけど甘味が増大させています。

フレンチやイタリアンのコーヒーは、中にはあまり……と言うお店もあったりするのですが、ここのはコーヒー専門店と同じくらい味わい深く、細かいところにも手を抜かない姿勢を感じ取れて好印象です。


フレンチというと、お決まりのお肉やお魚……というイメージがあるかもしれませんが、新たな素材や調理法の組み合わせで美しく美味しいひと皿を提供してくれるお店もあります。

ここはそうした美味しい驚きのあるのが、とても好きなところですね。

月一回メニューがかわるため、また季節を変えて訪れようと思います。

In a Narrow tone

ホリゾンタルカラーのシャツは「流行った」過去のものとなりつつあり、タブカラーやボタンダウン、ピンホールなど、「Vゾーンは広いものから狭めて盛り上げるもの」へと移行しつつあります。

 

高度経済成長期や固定電話など、10~20年続くから当たり前だと思っていたものが終わることもあり、会社勤めや恋愛婚など、ひるがえって見ると「ニューノーマル」となっていくものもあるでしょう。
ファッションは螺旋階段のようなところがあり、「行きつ戻りつ」の中で、素材や製法などのアップデートがあり続けるのだと思いますが、メンズドレスの世界でいえば、「クラシックなシャツ=Vゾーンが狭い」ので、ワイドカラーの流行がここ10~20年の一時的なもの、ということはできるのではないでしょうか。
一方で、デジタルに、世界中のファッショニスタの着こなしを参照し、発信することができるのは史上初なのですから、その中で、「来る」スタイルが出現するかもしれません。
また、チャールズ皇太子殿下は、自身のクラシックスタイルを貫いていることで、メンズドレスでは有名ですが、彼は「自分がもてはやされる時が、30年に1度来る」といった趣旨のことを言っていました。どんなスタイルでも貫いていると、流行の行きつ戻りつのなかで、ジャストフィットする時があるということだと思いますが、「変わらないルール」をつくりあげるのもアリなのではないでしょうか。

 

個人的にも、ボタンダウンなどを着つつ、ワイド、そして可能ならホリゾンタルも着こなし続けられるのは、すごいと思いますが、自分ではホリゾンタルをアップデートする装いは思いつかないのが正直なところです……カラーの開き具合を活かしたノータイスタイルなら?でしょうか。

 

いずれにしろ、まずは自分で試して着てみて…というところから、はじめてのシャツを手に入れました。

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BOLZONELLAのウェスタンシャツです。両胸ポケットのワークシャツは所有していましたが、レギュラーカラーのウェスタンシャツは初です。ウェスタンシャツはボタンがスナップで、両胸ポケットにフラップもある、カジュアルなシャツですが、ジャケットやスーツの下に着ると、一見すると「白のレギュラーシャツ」を着ているようで、実は違う、といった組み合わせができます。

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ウェスタンシャツにフランネルスーツ

シングルジャケットですと、両胸のフラップポケットがチラチラしますが、doubleジャケットだと、完全に隠れるので、通常のレギュラーカラーシャツのように見えます。

 

もちろん、カジュアル度の高いシャツなので、フォーマルシーンには全く適しませんが、アクティブなジャケパンスタイルなどには、単なるレギュラーからに見えて実は……な点と、襟先が長いため、跳ねて「表情を作る」ことができる点が、特に気に入っている点です。

両胸にフラップポケットがあることで、カジュアル感があるのもいいですね。

襟先の長さのバランスなど、ドレススタイルにアメリカンカジュアルの要素を落とし込むのはイタリアファッションはうまいな、と感心してしまいます。

 

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袖先には遊びの刺繍

スナップボタンなので、肌に触れる時に、冷たいのと、第一ボタンを留める時、喉元を押すことになり、なかなか難しいですが(笑)、タイを締めるけれど、とか、ジャケットを着るけれど、カジュアル要素を積極的に入れこみたい場合にとても活躍しそうです。

 

 

Luster Blossom

セールシーズンになると、いままで興味のなかった柄や形のアイテムが気になりますが、その中で「もの」になっていくものは多くないのではないでしょうか。

もっとも、通常価格で買ったものが、長く活用できるているかと聞かれると何ともお応えにくいですが……

 

もっとも、今まで敬遠してたものが、意外と「使える」こともあり……自分で能動的なサーチに引っかからなかったものが、SNSでのほかの方の投稿や本屋でふと見かけた本、ショップでふと目に入ったアイテムのように、セールというくくりで見ているとピンときたものもあると思います。ファッションアイテムは結局身に着けてみなければ…のものですがワードローブに加えるかはよくよく吟味したいものです。

 

しかし、オーソドックスなものであれば、使いまわせそうかの判断は容易ですし、手に入れてみたくなります。

私がクリアランスセールで見つけたのはネイビージャケット。暗すぎず明るすぎず普遍性の高そうなモデルです。20~30%割引になることはよくあると思うのですが、40%オフ表示を見て思わず手に取ってしまいました。

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De Petrilloのネイビージャケット

半裏ですが、ラペル幅9.5cmと今どきのイタリア製らしいです。生地がごわごわ厚手でAutumn/Winterのジャケット感満載です。
アームホールは小さく、ですが、窮屈どころか、生地のごわつきを感じさせないほど着心地が楽で、多くの人に愛されている理由がわかります。脇回りが特に独特ですが、それにより肩からアームホールのあたりの位置取りが独特かつ優れているんでしょうね。

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ブランドタグ

POSILLIPOというモデルでDrop7。以前Drop8のものを着たことがあるのですが、それよりはフィットしている気がします。POSILLIPOは、ブランドのあるナポリの町の丘の名前のようです。英国の靴もそうですが、地名がサマになっている感じがありますね。「数寄屋橋」など日本でもラインナップ名としてサマになりそうなものはありますが、その土地への各個人のイメージが違うと、解釈のポジティブ/ネガティブは異なりそうです。

さて、このジャケットを、もちろん、このまま着てもいいのですが、せっかくなので表情を変えてみました。

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ブレザーに

ボタンをメタルボタンに付け替えてブレザーにしてみました。

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メタルボタン

もともとの表情も活かしたく、縁取りがゴールドで中央の地色はネイビーのボタンにしてみました。メタルボタンには、さまざまあり、刻印なしのシンプルなものやさまざまなモチーフのものがあります。そのなかで、金一色より、中央部分がジャケットとなじんだほうが、このジャケット着用のシーズンである秋冬に適したラグジュアリー感がでるのでは…という目論見です。

かつて、名もなきブランドというか閉店セールのようなタイミングでふらっと入ったお店で買ったネイビージャケットは、生地が厚手なのに、裏地なし・本切羽仕様で冬によく着るお気に入りのジャケットの一着でした。ちなみにお値段なんと3,000円でした…

価格に見合わず?明るめのネイビーが気に入ってよく着ており、今思い返すとドレスクロージング的な方向性に興味を持ったきっかけの一つだったかもしれません。厚手生地のネイビージャケットを見ると、その時のことを思い出します。


このジャケットも、同じように着込んでいきたいです。

(Maybe) In The Mood

革靴の製法について調べるといろいろありますが、少なくない方が「グッドイヤーウェルテッド製法」のものを持っているのではないでしょうか。

 

グッドイヤーウェルテッド製法はそこを取り替えれば、履き続けることができるので、アッパーの革の手入れを続けて「経年変化」を長く楽しむことができます。

ローリングストーン、「転石、苔を生じず」ということわざは、英国では「一ヶ所に留まらず、転々としていると、身につかない。良い結果を産まない」のネガティブなイメージですが、米国では「新しいところに行くことで錆びつかない」とポジティブなイメージだと言われています。

2通りの解釈のうち、英国流を尊びそうな日本の精神なのか、せっかく買うんだから……ということなのかはわかりませんが、グッドイヤーウェルテッドのもの、長く履かれる靴が好印象を与えてきたと思います。

 

かくいう私も、所有する革靴のほとんどがグッドイヤーウェルテッドのもので、底を張り替えて履き続けています。

 

ブランドもさまざまで、英国のものや米国のもの、日本製のものも存在感をだしており、私の持っている靴で一番多いのは、miyagi kogyoのものです。

山形の靴ファクトリーのブランドですが、現在、百貨店でも販売されていますが、私が持っているのは原宿や銀座に店を構えるWorld Foot wear Galleryでの展開モデルです。

詳細経緯はわかりませんが、時系列としては、もともとこのショップでの展開ブランド"miyagikogyo"から、各百貨店などに展開する"MIYAGIKOGYO"が始まったと記憶しています。

(プリントされているロゴが小さい・大きいで便宜上、小文字・大文字としてます)

 

どちらも「インサイドストレート」と呼ばれる足に合いつつ、かっこいい木型ですが、WFGのmiyagikogyoのほうが、MIYAGIKOGYOよりも、スマートな木型を使っており、悪く言えば、ラストが合わない人もいると思いますが、多くの人に会いやすい形だと思います。

 

初めて買ったのは2010年で、キャップトゥを。アーモンドトゥと言われるまるっこいかたちで、10年前から今も続く「気分」に沿った、普遍性のある形をしている靴です。

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当時から「ここぞ」というシチュエーションに履くようにしていましたが、そのせいか、変にトゥに傷をつくってしまい、補修する羽目に…

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が、傷を埋め、ワックスをかけ、磨き続けたら、ほぼわからなくなってしまいました。
いまは、靴の数が増え特に特別な時に履く靴になりましたが、すでに2回オールソールをしています。

 

上の写真の通り、コバの縫い間隔も短く丁寧なものだと思います。中身については、自分で見ることはできませんが、金属のシャンクや、革のカウンターなど、しっかりとしたものだと、ムック本で特集されているのを見たことがあります*1

 

もちろん、着用したいシーン・目的によりますが、ジャケットもコストダウンだけのために接着芯や、ペラペラの生地をつかったものよりも、適切な生地の厚みがあり、毛芯のものが長持ちし、かっこいいのと同様、靴も見えない部分までこだわりぬいているもののほうが長く格好よく履けると思います。

 

そしてmiyagikogyoは日本製なので、ジャケットなどと同様に、欧州製よりも安いのが良い点だと思います。ブランドによってはワンランク上の価格のものよりしっかりしている作りかもしれません。

 

個人的に日本製の靴が良いと思うのは、メーカー純正修理ができるので、グッドイヤーウェルテッドの「底」だけでなく、底と他パーツを結ぶ「ウェルト」の部分についても純正で修理できるという安心感があることです。もっとも、まだそこまで進んだことはないですが・笑

 

グッドイヤーウェルテッド製法といえども、アッパーが傷んでしまうと、どうにもなりません。そのため、底を張り替えるといっても限度がありますし、保管方法やあまり過度に履くとダメージが靴に泡われることもあります。

そうはいっても、靴は長く付き合えるものです。「おしゃれは足元から」ではないですが、「苔を生じる」ことが最も楽しめるファッションアイテムは靴だと思います。

 

miyagikogyoだけでなく、様々な日本製ファクトリーブランドが最も存在感があるいま、自分の趣向や足の形に合う日本ブランドを探されるのもいいかもしれません。

ビジネスシーンに合うキャップトゥやセミブローグなどをそろえようとしたとき、いきなり超一流品には手が出にくいので、「はじめの一歩」としてもいいかもしれません。個人的にはスマートな表革のフルブローグが欲しいのですね。

 

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2013年購入のブラウンキャップトゥ。2回オールソールしましたがまだまだ元気

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2017年購入のフルブローグ。Tuffソールというラバーソールが頑丈で冬の札幌など雨の旅行では最適




*1:詳細は『最高級読本vol4』をご覧ください

Jumpin’ At The Roadside

尻手黒川線、という名前を聞いてパッとイメージが浮かぶのは川崎市民か、神奈川東部の道路事情に詳しいかたでしょうか。

川崎市内の南:尻手〜北:黒川を結ぶ文字通りの道路で、神奈川県内の鉄道に詳しい方なら、南武線の道路版とか、川崎市営地下鉄のイメージといえば、伝わるでしょうか。
川崎市内を南北に貫く幹線道路ですので、沿道には駐車場を広く構えた飲食店やスーパー、自動車ディーラーなどが並び、いわゆるロードサイド的な光景が繰り広げられています。
 
この尻手黒川線沿いの終わりのほうに、新しくラーメン屋さんができました。
名前は「日陰」。看板には「ラーメン」と至ってシンプルな文言しかない店構えですが、開店前から行列のラーメン屋さんなのです。
その理由は、もちろんラーメンがおいしいから。
 

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スープはここ最近流行りの淡麗系で、たんにあっさりではない、コクも感じられる滋味深い味わい。出汁には詳しくないですが複数の魚介を使っていそうです。
麺もトレンド?の太麺ですが、ここは極太!まるでうどんのようで、柔らか食感ですが、コシはちゃんとあり、ラーメンだ!という唯一無二の麺です。
 

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ファッションのように、グルメにもトレンドがあり、ラーメンにもあると思います。じつは店主はある人気ラーメン店の創業者らしく、そういった意味ではトレンドセッターよりもトレンドメイカーの作る一杯です。ファッションなら「ファッショニスタが選ぶ今欲しいアイテム」を自分で作ってしまったようなラーメンなのかもしれません。
注文を受けるとお一人で麺をこね、エビワンタンをつくり、スープをつくり……と店主がお一人でやっているので、こだわりが詰まっていそうです。
 
そうした時代とのマッチングもあってか、基本的には1時間は並ぶお店です。土日ですと、開店とほぼ同時に完売、なんてこともあるくらいです。最寄駅からも徒歩15分はありますので、都心にある行列店のように、何かのついでで行くことの難しい、「コスパの悪い」ラーメンなのは否めません。
しかし、そうまでして食べる価値のあるラーメンと言える一杯でした。
2021年開店のお店ながら、すでに超人気店なのは少なくない人が価値を感じているからなのでしょう。
 
コロナ禍の今のスタイルが終わるのか、それがいつなのかは誰にもわかりませんし、もし終わるとして、完全に以前の日常のようなスタイルになるのか、現在とのハイブリットのような形になるのかもわかりませんが、アイテムの購入だと、様々なショップが乱立しECで海外からもできるこの時代、いつでもどこでも買えるような状況になってきたと言えます。そんな中では「ここだけのパターンモデル」「オリジナル」や「●●サンから買う」が購買選択肢のより重要なファクターになっていくように、「ここでしか体験できない」「ここでしか買えない」というのは、「遠くでも、ならんでも体験したい」と思わせることは、今後のコト消費ではより重要になってくると思います。
 
 
ちなみに、川崎駅や日吉駅から出ているバスだと、店前のバス停で降りれますので、便利かもしれません。
 
 

月と五円:絵画に学ぶ装いの色

クレラー=ミュラー美術館所有のゴッホ作品をメインとしていたゴッホ展が東京都美術館でありました。

 

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展示会のトリとして掲示されていたのは、この『糸杉と星の見える道』*1。展示会の表題は『夜のプロヴァンスの田舎道』となっており、英語版wikipediaによると「『糸杉と星の見える道』は、『夜のプロヴァンスの田舎道』としても知られ、ポスト印象派のオランダ画家ゴッホの1890年の絵」とある*2ので、『糸杉と星の見える道』のほうがポピュラーなんでしょうか*3
それはともかく、展示会の中では、ゴッホの有名作『星月夜』と同様のモチーフかつ1年後の作品ということで、キャンパスの大きさ以上の、とてつもない存在感を放っていました。

 

タッチや絵の構図などのことはよくわかりませんが、特に、自分が好きな色であるブルーの使い方が、穏やかながら大胆で深みがあると感心しきりでした。

『星月夜』もそうですが、黄色い星や月がさんさんと輝き、そのまわりの白や淡い青緑、離れていくと深い紺碧、夜のとばりのようなダークネイビー…と、夜空のブルーの奥深さを巧みに表しています。

次に目を見張るのは、中央の糸杉です。ゴッホ作品のモチーフとなってきましたが、鬱蒼としたダークグリーンのところどころに明るいグリーンが使われており、『星月夜』よりも生き生きとして表現されています。

その糸杉の根本をちょうど境界線として、左手前から右奥に道と脇の草むらが引かれています。『星月夜』が夜の空と町の遠景になっているのに対して、『糸杉と星の見える道』では、絵を眺める視点から奥行きを持たせる「道」があるわけです。

 

一方で、「まとまりの良さ」もあるのではないでしょうか。色が青・黄・緑・白ベースになっており、それぞれの色がまじりあうのではなく、構図の中でグラデーションのブロックとして配置されているため、わかりやすいのだと思います。

 

この画を見ていて、メンズドレスの参考にもなるのではないかと思いました。

「グラデーションコーデ」や「差し色」のコーディネートの参考になるのではないか、ということです。

「紺-水色-黄」の星の周囲の配色からは、ネイビージャケットと、サックスブルーシャツ、差し色イエローの入ったタイのコーディネートが浮かびます。

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ブルー系統の色合いでまとめつつ、イエローがストライプとして入っています。

「月」のあたりからは、おなじようなジャケット・シャツとともに「黄色と赤の入ったストライプタイ」の装いもよさそうだなと感じました。赤と黄色が類似職なので、浮いたり、ごちゃごちゃして見えることがなさそうだな、ということですね。

 

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縦方向の「ブルーの空とブラウンの路傍」に目をやるのであれば、以前と同じ、「ブルー×ブラウン」系統の組み合わせが思いつきます。

 

または「ブルーの空と白い雲、白い道」であれば、こうした「ブルーベースとした中に白を入れた組み合わせ」もありかもしれない、と思えてきたり。

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最上部の「ブルーの空と、グリーンの糸杉」であれば、「ネイビーブレザーとグリーンニット」という組み合わせもなかなかしっくりきそうだと思えてきます。

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(ニットのタグの通り、ユニクロのニットです。今期のユニクロはニュアンスカラーが多めでトレンドキャッチアップされている印象です)

 


ただ、気を付けなければならないのは、キャンパスは長方形で場合によっては人間より大きいですが、ファッションは限られた構成アイテムから成る点でしょうか。思案のきっかけとなっても、色遣いをそのまま使うのは散漫になりそうです。『糸杉と星の見える道』でいえば、ネイビーやスカイブルー、エメラルドグリーン、ダークグリーン、ブラウンなど、用いられている全色をそのまま反映させると、カントリーテイストの色合いが濃いと思いますし、「月の周囲からイエロージャケット主体のコーディネート」を考えるのは、可能だと思いますが、現代は黄色いジャケットは少数派で目立たざるを得ないはないでしょうか。絵の中でも差し色として位置しているものはそのままで、参考にする色合いの範囲を決めることが肝要でしょう。

 

近年、これまでの経験・データによる知見や効率性からは生み出せないブレークスルーの源としての期待から芸術作品に注目が集まっており、「アート思考」など聞いたことある方は少なくないでしょう。それは、たとえば写実的な絵画であっても、決して「見たまま」ではなく、画家によって、作り上げられた構図や色彩によるもので、作品が「デザインされている」から、学ぶところがあるのだと思います。

自然界・日常にある色々のグラデーションや補完・反対色の際立たせ方を、うまく「抽出し作り上げて」いるうえ、先人たちの鑑別にかなった名画について、ファッションからも学ぶ面は大いにあるのではないでしょうか。

 

ちなみに、東京では終了してしまいましたが、福岡では現在開催中、名古屋では来年開催予定らしいので、機会があればぜひご覧ください。

gogh-2021.jp

*1:絵の画像はwikipediaより

ja.wikipedia.org

*2:英語版wikipediaより

en.wikipedia.org

*3:展示会図録によるとゴッホの書簡に「糸杉のある星月夜」というフレーズがあるそうで、『星月夜』後の作品なのだし、個人的には「糸杉のある星月夜」という呼び名もいいんじゃないかと思います。『ローヌ川の星月夜』という作品もありますし