月と五円:絵画に学ぶ装いの色

クレラー=ミュラー美術館所有のゴッホ作品をメインとしていたゴッホ展が東京都美術館でありました。

 

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展示会のトリとして掲示されていたのは、この『糸杉と星の見える道』*1。展示会の表題は『夜のプロヴァンスの田舎道』となっており、英語版wikipediaによると「『糸杉と星の見える道』は、『夜のプロヴァンスの田舎道』としても知られ、ポスト印象派のオランダ画家ゴッホの1890年の絵」とある*2ので、『糸杉と星の見える道』のほうがポピュラーなんでしょうか*3
それはともかく、展示会の中では、ゴッホの有名作『星月夜』と同様のモチーフかつ1年後の作品ということで、キャンパスの大きさ以上の、とてつもない存在感を放っていました。

 

タッチや絵の構図などのことはよくわかりませんが、特に、自分が好きな色であるブルーの使い方が、穏やかながら大胆で深みがあると感心しきりでした。

『星月夜』もそうですが、黄色い星や月がさんさんと輝き、そのまわりの白や淡い青緑、離れていくと深い紺碧、夜のとばりのようなダークネイビー…と、夜空のブルーの奥深さを巧みに表しています。

次に目を見張るのは、中央の糸杉です。ゴッホ作品のモチーフとなってきましたが、鬱蒼としたダークグリーンのところどころに明るいグリーンが使われており、『星月夜』よりも生き生きとして表現されています。

その糸杉の根本をちょうど境界線として、左手前から右奥に道と脇の草むらが引かれています。『星月夜』が夜の空と町の遠景になっているのに対して、『糸杉と星の見える道』では、絵を眺める視点から奥行きを持たせる「道」があるわけです。

 

一方で、「まとまりの良さ」もあるのではないでしょうか。色が青・黄・緑・白ベースになっており、それぞれの色がまじりあうのではなく、構図の中でグラデーションのブロックとして配置されているため、わかりやすいのだと思います。

 

この画を見ていて、メンズドレスの参考にもなるのではないかと思いました。

「グラデーションコーデ」や「差し色」のコーディネートの参考になるのではないか、ということです。

「紺-水色-黄」の星の周囲の配色からは、ネイビージャケットと、サックスブルーシャツ、差し色イエローの入ったタイのコーディネートが浮かびます。

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ブルー系統の色合いでまとめつつ、イエローがストライプとして入っています。

「月」のあたりからは、おなじようなジャケット・シャツとともに「黄色と赤の入ったストライプタイ」の装いもよさそうだなと感じました。赤と黄色が類似職なので、浮いたり、ごちゃごちゃして見えることがなさそうだな、ということですね。

 

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縦方向の「ブルーの空とブラウンの路傍」に目をやるのであれば、以前と同じ、「ブルー×ブラウン」系統の組み合わせが思いつきます。

 

または「ブルーの空と白い雲、白い道」であれば、こうした「ブルーベースとした中に白を入れた組み合わせ」もありかもしれない、と思えてきたり。

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最上部の「ブルーの空と、グリーンの糸杉」であれば、「ネイビーブレザーとグリーンニット」という組み合わせもなかなかしっくりきそうだと思えてきます。

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(ニットのタグの通り、ユニクロのニットです。今期のユニクロはニュアンスカラーが多めでトレンドキャッチアップされている印象です)

 


ただ、気を付けなければならないのは、キャンパスは長方形で場合によっては人間より大きいですが、ファッションは限られた構成アイテムから成る点でしょうか。思案のきっかけとなっても、色遣いをそのまま使うのは散漫になりそうです。『糸杉と星の見える道』でいえば、ネイビーやスカイブルー、エメラルドグリーン、ダークグリーン、ブラウンなど、用いられている全色をそのまま反映させると、カントリーテイストの色合いが濃いと思いますし、「月の周囲からイエロージャケット主体のコーディネート」を考えるのは、可能だと思いますが、現代は黄色いジャケットは少数派で目立たざるを得ないはないでしょうか。絵の中でも差し色として位置しているものはそのままで、参考にする色合いの範囲を決めることが肝要でしょう。

 

近年、これまでの経験・データによる知見や効率性からは生み出せないブレークスルーの源としての期待から芸術作品に注目が集まっており、「アート思考」など聞いたことある方は少なくないでしょう。それは、たとえば写実的な絵画であっても、決して「見たまま」ではなく、画家によって、作り上げられた構図や色彩によるもので、作品が「デザインされている」から、学ぶところがあるのだと思います。

自然界・日常にある色々のグラデーションや補完・反対色の際立たせ方を、うまく「抽出し作り上げて」いるうえ、先人たちの鑑別にかなった名画について、ファッションからも学ぶ面は大いにあるのではないでしょうか。

 

ちなみに、東京では終了してしまいましたが、福岡では現在開催中、名古屋では来年開催予定らしいので、機会があればぜひご覧ください。

gogh-2021.jp

*1:絵の画像はwikipediaより

ja.wikipedia.org

*2:英語版wikipediaより

en.wikipedia.org

*3:展示会図録によるとゴッホの書簡に「糸杉のある星月夜」というフレーズがあるそうで、『星月夜』後の作品なのだし、個人的には「糸杉のある星月夜」という呼び名もいいんじゃないかと思います。『ローヌ川の星月夜』という作品もありますし