ドライブ・マイ・キュー

フレンチと言えば、魚のムニエルとクリームソースだったり牛肉と赤ワインソースだったりと、味は濃く重く、存在感たっぷりなものです。

対して和食は「引き算」と言われるように、素材の味を魅力的にする、シンプルなものと言えるでしょうか。刺身なんて、魚の切り身と醤油とわさびしかないですが、魚という素材の鮮度や切り方、しょうゆとわさびの差で、店ごとの味の違いがあるわけです。これがフレンチやイタリアンになると、「マグロのマリネ」や「スズキのタルタル」になって、バルサミコ酢が、とか、トマトのピューレが、とか味付けにプラスの要素がどんどんと重なっていくのです。(それはそれとして「サラダと、刺身って同じだよね」と素因数分解していった『料理の四面体』は名著ですが)

 

「モダン・フレンチ」や「イノベーティブ」は、「重いフレンチもいいけれど、日本人が作る・食べる料理としてはもっと引き算していいよね」ということで、和の調理法やテイストが入ってきているということだと理解しているのですが、ある種の究極として引き算しまくったらどうなるのか?
その解は広島県にありました。

 

お店の名前はAKAI広島県の宮島行きフェリーが出る宮島口から徒歩10分ちょいとアクセスは良くはない地にあります。

 

シェフはフレンチ出身ですが、一品目は「トラフグとカラスミのお粥」です。

トラフグとカラスミのお粥

白いのがトラフグ、中央の黄色いのがカラスミですね。これだけ聞くと、和食じゃん、となるところですが、オリーブオイルが欠けてあります。周囲の黄色いのがオイル。和食の引き算の中に、オリーブオイルの加算がされています。これによってトラフグの淡泊さとカラスミの塩辛さが、オリーブオイルでまとまっており、舌触りも滑らかで、和食っぽいけれど、このバランスは唯一無二です。

 

赤貝と白菜・白ネギの和え物

2品目の赤貝と白菜・白ネギの和え物。フレンチ的に言えば前菜なんでしょうか。赤貝は周防島産で地産地消へのこだわりもうかがえます。赤貝は、赤貝の出汁に漬けて、「うまみの濃縮還元」となっていて、白菜や白ネギは玉子味噌で和えています。見た目も味も和のテイストですが、赤貝の「味付け」がフレンチの料理法っぽさがあります。

 

里芋のかす汁

3品目は里芋のかす汁で、見た目は白味噌のお雑煮のようですが、一口目の味は柚子が口の中いっぱいに広がり、白味噌粕汁の味わいが続きます。里芋は濾したものを素揚げしており、あまり「映えない」料理ですが、とても手がこんでおり、料理への姿勢のわかる一品です。

 

ツキノワグマのハンバーグ

4品目はツキノワグマのハンバーグ。クマと聞くと癖がつよそうですが、味わいは力強いものの、癖などは一切感じず、下のキャロットソースによって軽やかな味わいになっています。

サワラの藁焼き

島根産のサワラの藁焼き。柴漬けのように付け合わせがあるのが和食のようですが、真ん中は生でレアな焼き加減で、フレンチの魚料理を想起させます。うっすらとお酢と砂糖を使ったソースがかかっており、お酢は京都のものとのこと。フレンチほどの濃厚さはないのですが、醬油やみりんなど、和食の調味料とは違った味わいが楽しめます。

 

がんもどきと白菜、すっぽんのスープ

がんもどきと白菜をすっぽんのスープに入れた、完全に和食的なアプローチで優しい味わいながら、白菜の甘味やすっぽんの力強さを感じることができます。

 

カモのロースト

フレンチでいうメインはカモのロースト。カモは鹿児島県産とのこと。ちょこんとレバーが乗っており、部位ごとの味わいも楽しめます。しょうゆベースのソースとわさびが和のテイスト的です。

 

ルッコラとカキの炊き込みご飯

ルッコラとカキの炊き込みご飯。カキは江田島のもので、ルッコラは四国のもの。炊き込みご飯に香菜といえば三つ葉ですが、そこをルッコラとし、仕上げにオリーブオイルなのがこの店ならでは。思わずお替りしてしまいます(笑)

 

ジャスミンのアイス

自家製プリンとコーヒー

デザートはどちらも自家製で、淡泊なアイスと濃厚なプリンと味わいの「差」がフレンチのコースらしさを感じます。コーヒーも直前に淹れ、カップにもこだわる徹底ぶりです。

 

牛や豚ではなく、ジビエを使っているのは、自然のうまみのバランスの良さが好みだそうで、和食的なアプローチをするのは、「日本の食材の旨さを引き出すには引き算的なアプローチが良い」という判断とのこと。広島や中国地方、西日本の食材や調味料を使った「自然らしさ」を求める姿勢が感じられます。

 

「イノベーティブ」と呼ばれるジャンルでは、和食手法で使いながらもフレンチらしさを感じることが多いですが、引き算の中に足し算を最小限加えるスタイルは唯一無二ではないでしょうか。広島、特に宮島に訪れるならばぜひ訪れてほしいお店です。