運命のネイビーサイド

はた目から見ると同じように見えるけれど、ついついワードローブに増えてしまうたぐいのものが1つや2つ、あると思います。

シャツや、ジーンズ、スリッポンなど、色味や襟型が違っているからこそ、手にして今うわけですが、家族から見ると「同じようなものを…」となることも少なくないのではないでしょうか。

 

正直、メンズドレスクロージングに興味ない人からすれば、冠婚葬祭でキャップトゥだろうが、ローファーだろうが違わず、なんとなく「黒い靴履いているな」というのが大事なのかもしれません。

 

一方で、興味ある人からすると、その差異こそが大事で、だからこそ、微妙なネイビー/グレー/ブラウンの色出しを気にし、同じサイズでもより「合っている」アイテムを身に着けたいと考えているのだと思います。

「何をどう集めていくか」というか、「集まってしまうのか」は人によって異なるでしょうが、私の場合は「ネイビーブレザー」がそれに該当します。

 

思わずワードローブの仲間入りしたのは「Alfonso Sirica」。イタリアの、ほとんどハンドメイドで作られているメーカーブランドです。

色味がフォーマルよりながら、黒に見間違えるほどダークネイビーなブレザーより青みがかっており、より着こなしやすそうな点、そして、ほぼハンドという造りが気になり「仲間入り」となりました。

背中の中央線など、地縫いと呼ばれる箇所以外はハンドになっており、襟の表情が独特で唯一無二になっています。

ボタンホールも手縫いで、ボタンを留めると外しにくく、これはまだボタンホールがボタンの形に「馴染んで」いないことによる起きるもの。

ナポリのブランドらしく、前ダーツが下まで伸びています。こうすることで、重心が前に移動させる効果があり、着心地に変化があるらしいです。

やや腕は太目ですが、着てみるとちょうどいいバランスで、着心地はとても楽です。ウェイトはとても重い生地なのですが、脱いで手に持つ感触と、着ている重さはだいぶ違います。先に記したダーツの部分をはじめ、型紙が優れている…ということを実感します。もともと突き皺がでやすい体型なのですが、もっともでにくいジャケットであるところも個人的には、感嘆したところです。

 

2023年の東京は暑く、今日で真夏日が90日目とのこと。およそ一年間の1/4が真夏日というは暑さで、ブレザーを羽織るのはなかなか難しかったですが、ようやく秋の入り口が見えてきました。

これが地球温暖化の成果は不明ですが、暑い日が増えていくなら、そのうちSS/AWの区分けもなくなり、SSと別に「猛暑」枠ができ、AWはSSコーデ+コートが最適解になるかもしれません……

気候のことはわかりませんが、涼しくなってきたら、このブレザーで、どういうコーデをするか楽しみにしています。

His Last Shoe(s)

スーツは、ジャケットは、パンツは、ネクタイは、どれくらいあるのが適切なのでしょうか。ちゃんとその最適解を持ち合わせ、必要数で、着回しができる人は、あんまりこういった服に興味ないか、かなり客観視ができる方なのでしょう。

一回の外出で着れるアイテムはそれぞれ1つなのに、増えていき、気付くと、クローゼットを圧迫していく……この現象は、あるあるなのではないでしょうか。

新作で新しいモデルを見かけ、クローゼットにない柄のアイテムを見かけ……と増やさないためには、オタクスラング「沼」に陥らないために必要なことは一度「沼」に浸かり、要不要を見極めることが肝要かもしれません。

いろいろなアイテムを着ることで、「これは自分に合う・合わない」が確立されていくかららです。

そうならないためには、1つはオーソドックスな「定番」や、あるいは「着回しをよくよく考え」たうえで手に入れるのが良いというのはどこが聞いたかある文句かもしれません。

 

他方、クローゼットを圧迫する「一目惚れ」的欲求というのは、SSやAWの新作紹介や店員さんのオススメだけでなく、セール品を見て、ということがあると思います。

難しいのは、セール品は人気がないからセールになっているわけで、多くの人が「合わないかな」とか、「この値段ならいいや」と思った可能性が高く、一般的な「着回し力」は、高くないと考えられます。

 

しかし中には、着回しがしやすそうなアイテムもあり、例えば、ネイビースーツとか黒のキャップトゥとか、普段でも一定の人気がありそうなのに、セール対象であることがあります。お客さんに注目してもらうためなのか、あるいは定番ゆえに、すでに多くの人が持っているためスルーされて、対象となったのかは不明ですが、こうしたものは「元が取れ」安いと思います。まあ、世間的な視点は置いておいて、自分が着まわせそるか?は必ず振り返るようにしてます。

 

今回セールで手に入れたのは、Edward Greenのビットローファーです。最近の70〜90sリバイバルの流れか、ビットローファーが注目されていますが、所持しておらず、前々から欲しいと思っていたところ、有楽町でセールにかかっており、手に入れました。

EGブランドに詳しい人ならご存知のユタカーフというシボ革で、ネクタイありの服装から、もっとカジュアルなクールビズスタイルにも合いそうと考えています。

EGブランドは英国の街や人名が靴のモデル名となっていますが、このビッドローファーは、Althorpという名前で、故ダイアナ妃の生家であるスペンサー伯爵家の居城が由来のようです。スペンサー伯爵の嫡子はオルソープ子爵と名乗るようですね。

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Althorp

ちなみに、オルソープはEGの工場のあるノーサンプトンから、10kmていどのようで「近い」と言えるでしょう。

BuckinghamやDukeなど、王侯貴族を想起される名前が、ローファーに付けられていることを考えると、このAlthorpも居城でのくつろいだシーンをイメージしているのでしょうか。

 

Last(木型)は184で、スリッポンやローファータイプの王道のカタチです。ただ、同じラストのBelgraviaは6.5で、Piccadilyは7で履いているにも関わらず、この靴は7.5を選択しました。7だとかなりギリギリ、7.5で足入れした瞬間に空気が抜ける「ジャストフィット」感があるためのチョイスですが、同じ木型でここまで変わるのか、ビットローファーの金具のせいなのか、はたまた試着時の足や体調の変化なのか、分かりませんが、EGの靴は同じ木型・サイズでもよくよく吟味が必要と感じました。

 

デザインでは、ビットローファーの金具部分だけでなく、ヒールに「ツマミ」があるのが特徴的です。タッセルローファーのBelgraviaにある意匠で、ローファーよりややドレスな靴だから、でしょうか。

細かいデザインのこだわりはありつつ、独りよがりでないバランスはこのブランドならではです。

定番のような靴で、これまで持ってなかったビットローファー。これを最後とできればと(いつも)クローゼットを見ながら思いますので、世間的な定番が「自分の定番」となれるよう履き慣らしていきたいです。

 

 

飽き屋の冒険

ドレスクロージングのアイテムは、新しく手に入れた時より、使い込んでいったほうが「モノになる」感があります。リネンジャケットの皺や、コットンシャツのヨレなど、着ている人になじんでいる感を与えるとともに、「ファッションアイテムとの距離感」が分かるようになってくる気がします。

 

最もそうした考えがあるのが靴でしょう。「革靴は買った時が一番かっこ悪い」なんてことが言われていますが、ブラシや靴用クリームで磨いていくことで、風格のようなものがでてきます。

2012年に購入したGrensonの外羽根クォーターブローグです。当時、グレンソンでは「マスターピース」と「フットマスター」という2ラインに分かれていました。Crokett&Jonesの「ハンドグレード」と「スタンダード」のようなもので、「マスターピース」ラインでは、EdwardGreenのような小窓にサイズが記載され、ブランドロゴが箔押しではなく、刻印となっています。

革質もグレードの高いラインとしてのものになっており、磨くと光りやすいもので、当時は伊勢丹のシーズン終わりのセール品として巡り合いました。

木型は、ややぼってりとした英国らしいフォルムのもので、なじむまでに小指箇所が痛くなり、フィットするまでにやや時間がかかった記憶がありますが、フィットしてからは快適です。

ダークブラウン~ブラウンくらいのカラーですが、より濃い色にしたいと考え、ネイビーやブラックの靴クリームで磨き、現在のようなムラ感を出すことができました。実はつま先を傷つけてしまったのですが、それもうまくごまかせたのかなと思います。

オールソールは2回しており、もともとはレザーソールでしたが、現在はラバーソールにしているほか、履き始めに、外羽根の「ベロ舌」の根本が「裂けかける」ことがありましたが、リペアショップで修理してもらって以来、不調はありません。

 

茶の紐靴は必須と言われ、手に入れたものの、おりしも足元はスリッポンやダブルモンクが大きな注目を集まっており、たびたび履くものの、位置づけは悩んでいました。

しかし、紐靴への再脚光や、カジュアルな要素を使ったブリティッシュアメリカンスタイルへの注目に合わせ、活躍できる「位置」が定まってきたように感じています。

 

ベージュのコットンスーツや、チェックシャツをインナーとしたジャケットスタイルなど、カジュアルな素材・柄には外羽根のアクティブなフォルムと、茶のカジュアルな色遣いが適しているように思っています。

「答え」を早く提示し、進めていくことが好まれるご時世ですが、「わからない」ままで、結論を出さず、10年感、付き合うことで、新たな発見で活躍の可能性が広がるのは、温故知新があるファッションならではかもしれません。

シャツプラトー

ネクタイは、2枚のパンに挟まれた「具」のようなものである。「具」がまずければ、どれほどおいしいパンでもまずく感じ、「具」がおいしければ、多少まずいパンでも我慢できる。

イタリアンクラシックの旗手として知られた落合正勝氏はこう言ってました。「パン」ってスーツのことなのか、シャツのことなのか、一番お金をかけるべきは「靴」と言っているが、じゃあ、このたとえでいうと何なの?皿?とか突っ込もうと思えば、多くのことが言えそうですが、それはともかく、「目を引くところにクオリティの高いものを」という考え方は、少なくない方が賛同するでしょう。

彼はアイテムの優先順位として「靴>>>ネクタイ>>スーツ>シャツ」といったことを言っていたと理解していますが、別の方も「靴>スーツ・ジャケット…」と購入アイテムを考えると、SNSで投稿しているのを見て、やはり「靴」が重要なんだな、と改めて思いました。

 

それと比べ、シャツは軽視されがちです。「10万円のスーツと1万円の靴の組み合わせと、1万円のスーツと10万円の靴の組み合わせなら後者の方がかっこよく見える」と言われている通り、面積は他のアイテムより小さいけれど、存在感があり、「足元を見られる」靴や、上半身を覆うジャケットや、体の真ん中にあるネクタイに比べ、シャツは、見える面積も存在感も少ないです。そのうえ、肌着的なポジションなので、洗濯・クリーニング回数も他アイテムより高く、消耗品としての捉え、他アイテムに投資してシャツは〇〇円以下しか買わないという方もいらっしゃるようです。

 

とはいえ、シャツはズボン・ジャケット・ネクタイの接続をする、「土台」とも言えます。レスレストンに感銘を受け、シャツブランドをいろいろ試してみたいなと思って、次に手に入れたのが、フィナモレのシャツです。

ドレスラインでハンドで7ヶ所を縫っているそうですが、まず目を引くのは、襟の形です。ワイドカラーの、剣先の曲線の曲がり具合(Rと言えばいいんでしょうか)が、なんとなくイタリアっぽさを感じます。

柄は、ブルーのマイクロチェックで遠目では無地に見えるところが、カジュアルな着こなしから固めの着こなし双方に対応できそうで、気に入っています。ニットタイや、ストライプタイや、ブレザーはもちろん、スーツでもマッチしそうです。

 

特徴的なのは、袖のボタン位置。たいていはもっと先端に近いところにボタンがあり、袖を「キュッ」と締めていますが、フィナモレのシャツはカフス部の根本にあり、その先は自由という感じです。

実はこれで困ったのが、シャツの袖丈。海外ブランドのシャツは袖丈が長く、(私が短いだけですが)工夫が必要です。もっとも簡単なのは、袖ボタン位置を内側にして、袖が落ちるのを防止することです。この場合、シャツだけの姿のシルエットは、ややダボっとしますが、ボタン付けを自分でやれば費用は掛かりません。

が、このフィナモレのシャツは、カフス部の根本にボタンがあり、袖をきつくしてもずれ落ちてきそうです。そこで、袖丈の詰めを行いました。あまりお直しでいじるのは好きではないのですが、袖丈を詰めることで、シルエットもすっきりしたかたちに。

ない、シャツの袖丈は、鎌倉シャツの普段着ているサイズと同じになり、鎌倉シャツのバリエーションの幅広さと、サイズごとの設定はさすがだと思いました。

 

ちなみに、ガゼットの箇所はハンドで縫われている場所の一つですが、シャツと共地ではなく、白なのが、イタリアのモノづくりっぽさを感じます(笑)

かなりオーセンティックな形と柄なので、長く着たいものです。

 

今年もブルーが流行

フランスの思想家ロラン・バルトによるエッセイに「今年はブルーが流行」というものがあります。私なりの理解をすごく簡単に言うと「ファッションの言葉はふわふわしているよね」を指摘していて、たとえば、「光沢のある生地による濃紺ダブルスーツは冠婚葬祭にもぴったりです」と書いてあるとき、「生地/色/かたち」のうちどの要素が「冠婚葬祭」と結びついているのか、わからない、ということですね。

タイトルの「今年はブルーが流行」についても同様に、「誰が/何のアイテムで/どいうシチュエーションのもので」「ブルーが良い」と言っているのかわからない、けれど、ファッションについて語るときによく見るフレーズだよね、という指摘です。

 

 

個人的には、このような「何か言っているようでよくわからない」ファッションワードは、「気分」だと思っています。「トレンドとして、フレンチムードがある中ですので、インナーはポロを着るのが気分です」とか、「カジュアルなアイテムによるコーデですが、敢えてフォーマルっぽい黒の革靴を合わせるのが気分です」とか、平たく言うと「自分が、イマはまっている着こなしやファッションアイテム」のことを指しているのでしょうが、順接・逆接問わず「気分です」と表現できる点や、あいまいながら何か伝えてられる点が良いのか、多用されているイメージです。

 

「ダスティカラーの流行からニュアンスカラーへ」といったトレンドのほか、「もともとはバウアーは、カジュアルなアウトドアアイテムだけれど、スーツに着てもマッチする」のような、文脈を踏まえた着こなしがファッションのかなめでしょうし、色味は映像や画像、実物を見ないと、「しっくりくる/こない」がわからないことがあり、「気分」は非言語的な感触を、短いワードで端的に表現したものと言えるかもしれません。

 

一方で「永遠の定番」は、せっかく買うファッションアイテムを長く使いたいという点から、重要視され、特に購入者としてはいろいろと着まわしてみたい、と思うところだと思います。その観点で考えると「気分」としての、自分の気になる組み合わせを楽しみつつ、次の「定番」になりそうなアイテムをそろえていく…のが良いのでしょうか。

 

色味ということでは、グレーやネイビー系統は、定番ではありますが、色を軸としてアイテムを変えてそろえていくことで、「失敗」が少なくそろえていくことができるのかもしれません。

ネイビー系のジャケットの延長で切れるかなと思い、ネイビーのスエードブルゾンを手にしてみました。レザーブルゾンなら、表革やスエードのブラックやブラウンが思い浮かぶところですが、表情がジャケットとだいぶ違うため、「違うな」となりやすい懸念があり、ネイビーのスエードブルゾンとしました。ボトムスやインナーとのあわせが、ネイビージャケットと同じようにタイとシャツをして着ることもできそうです。もちろんブルゾンなら、インナーはニットやTシャツが似合うところですが、それもネイビージャケットと同様に考えることができるかな、と。

 

こちらは、ネイビーベースにブルーとホワイトのラインが入っているタイ。春夏っぽいスタイルに、と思いオーダーしました。よく見ると色のラインによって生地感が異なるものでして、そういった生地感のタイは初めてなので、青系統のものとしました。先ほどのブルゾンに合わせることができそうですね。

あまり同じ色味ばっかりのものだと味気ないのは事実ですが、「チャレンジ」する場合は、まずは色を軸に考えると、しっくりくることが多いかもしれません。

平和の祭典

La Paix、フランス語で「平和」意味しますが、日本橋にあるフランス料理店のお名前でもあります。

クラシックな、ソースが濃厚なフレンチとは違う、和のエッセンスや旧来のジャンルを超えたエッセンスが入った「モダンフレンチ」のお店です。日本橋のモダンフレンチとしては「ボンヌ・ターブル」が、見栄え良いサラダをはじめ、個人的には気に入っており、気になっていたのもの、伺えていないお店でした。

La Paixは、価格はワンランク上ですが、それに見合った、ひょっとするとそれ以上の体験ができるお店です。

食材同士の組み合わせの「相性」や調理方法の「選定」が極めて斬新なだけでなく、ペアリングも含め、ドリンクとの「相性」も一級の体験ができるところが、とても素敵です。雰囲気は、シックな雰囲気で席数は多くないので、カジュアルなオシャレご飯の集いではなく、記念日など大切な日のために予約していく店でしょうか。

ペアリングによるドリンク/フードの味わいの変化も感じられ、少なくない「なんとなくペアリングドリンクがある」お店とは一線を画しています。せっかく訪問される際は、ノンアルコールなりアルコールペアリングをすると、このお店のポテンシャルを万篇なく体感できると思います。この時はノンアルコールのペアリングをしました。

 

1品目は「シュー」で、「ウニと海苔」と「マグロ」の1つずつ。特に、ウニと海苔の海の味わいが口いっぱいに広がりつつも、底にあるあっさりクリームとシューで、口当たりは軽やかにしています。

あわせるドリンクは、イチゴとトマトのジュース。色は重そうですが、炭酸入りであっさり目です。ドリンクとフードが共同歩調をとっている形ですね。

 

2品目は、カボチャのポタージュで、濃厚なポタージュの中に、ウバ茶のクリームが乗っていて味を引き締め、スープの中に、お肉(ベーコン)が入っており、味わいのアクセントになっています。ペアリングはナシと緑茶を組み合わせたもの。ドリンク単体で飲むとナシの香りが強く、そのあとに緑茶がやさしく感じられますが、ポタージュを食した後だと、ナシより緑茶のほうが強く、濃厚なポタージュを、スッと後味牽かせないようになっていて、まさに「ペアリング」を感じることができました。

3品目は、カマスのタルタル。ナカダチカマスという種類を三浦から仕入れているそうですが、見た目を引くのは、ニンジンのムースと、そして透明なトマトジュレ。トマトの酸味とニンジンのさわやかな甘みがカマスにマッチしています。ワイン用ブドウのジュースにゆずが入ったドリンクは、そのまま飲むとゆずの酸味がしますが、フードと合わせると、まろやかなブドウらしさが全面に出てきます。

4品目はパセリがメインの一品。パセリとホタテ、グアンチャーレを包んだ揚げ物にエビ芋と牡蠣のソースがかかっており、パセリの苦味と旨味、ホタテの濃厚さがグアンチャーレのしょっぱさの中で際立っています。エビ芋と牡蠣も「濃厚」ながらそれぞれちがうレイヤーなので、味としてはまとまりを感じます。ドリンクは、甘酒とほうじ茶、米酢をブレンドしたもので、単体ではほうじ茶が印象深いですが、お皿と合わせると酸っぱさが際立ち、揚げやソースの濃厚な料理を洗い流すような対比した位置付け。

5品目は、甘みの強いキャンディーキャベツと白子、シャドークイーンというジャガイモのスライスにトリュフを乗せたもの。シャドークイーンと白子が似てるけど違う、まったり感のテクスチャーを、トリュフが香りで重くしつつキャベツがさっぱりさを引き出しており、見た目は映えませんが笑、さまざな味わいと歯応え、香りが楽しめます。ドリンクは昆布茶のアニス入れで、料理とは違った淡白さですが、ステキなクセの強さはどちらも変わりません笑

6品目はアンコウのソテー。ソースというよりスープとして鶏とアサリのお出汁がかかってます。アンコウのプリプリと脂のうまさを、お出汁でうまく引き立てて、全体のトーンはあっさり目にしており、カルピスをノンアルコールビールで割ったペアリングと同じテイストで仕上がってます。

7品目は、田村牛に大根のコンフィを添えて。火入れが絶妙でレアにはならないけど、赤身の旨さが伝わってきます。合わせるドリンクは、ほうじ茶とりんごで、リンゴの爽やかさが広がりるものが、お肉と合わせるとほうじ茶が主張強くなります。

最後にデザートとしてブラマンジェとイタリアのデザート、そして某お菓子を模したチョコレートスイーツ。

料理そのものが美味しいだけでなく、ドリンクと合わせることで奥行きを何倍にもするこだわりとセンスは体験の価値大アリだと思います。

ドライブ・マイ・キュー

フレンチと言えば、魚のムニエルとクリームソースだったり牛肉と赤ワインソースだったりと、味は濃く重く、存在感たっぷりなものです。

対して和食は「引き算」と言われるように、素材の味を魅力的にする、シンプルなものと言えるでしょうか。刺身なんて、魚の切り身と醤油とわさびしかないですが、魚という素材の鮮度や切り方、しょうゆとわさびの差で、店ごとの味の違いがあるわけです。これがフレンチやイタリアンになると、「マグロのマリネ」や「スズキのタルタル」になって、バルサミコ酢が、とか、トマトのピューレが、とか味付けにプラスの要素がどんどんと重なっていくのです。(それはそれとして「サラダと、刺身って同じだよね」と素因数分解していった『料理の四面体』は名著ですが)

 

「モダン・フレンチ」や「イノベーティブ」は、「重いフレンチもいいけれど、日本人が作る・食べる料理としてはもっと引き算していいよね」ということで、和の調理法やテイストが入ってきているということだと理解しているのですが、ある種の究極として引き算しまくったらどうなるのか?
その解は広島県にありました。

 

お店の名前はAKAI広島県の宮島行きフェリーが出る宮島口から徒歩10分ちょいとアクセスは良くはない地にあります。

 

シェフはフレンチ出身ですが、一品目は「トラフグとカラスミのお粥」です。

トラフグとカラスミのお粥

白いのがトラフグ、中央の黄色いのがカラスミですね。これだけ聞くと、和食じゃん、となるところですが、オリーブオイルが欠けてあります。周囲の黄色いのがオイル。和食の引き算の中に、オリーブオイルの加算がされています。これによってトラフグの淡泊さとカラスミの塩辛さが、オリーブオイルでまとまっており、舌触りも滑らかで、和食っぽいけれど、このバランスは唯一無二です。

 

赤貝と白菜・白ネギの和え物

2品目の赤貝と白菜・白ネギの和え物。フレンチ的に言えば前菜なんでしょうか。赤貝は周防島産で地産地消へのこだわりもうかがえます。赤貝は、赤貝の出汁に漬けて、「うまみの濃縮還元」となっていて、白菜や白ネギは玉子味噌で和えています。見た目も味も和のテイストですが、赤貝の「味付け」がフレンチの料理法っぽさがあります。

 

里芋のかす汁

3品目は里芋のかす汁で、見た目は白味噌のお雑煮のようですが、一口目の味は柚子が口の中いっぱいに広がり、白味噌粕汁の味わいが続きます。里芋は濾したものを素揚げしており、あまり「映えない」料理ですが、とても手がこんでおり、料理への姿勢のわかる一品です。

 

ツキノワグマのハンバーグ

4品目はツキノワグマのハンバーグ。クマと聞くと癖がつよそうですが、味わいは力強いものの、癖などは一切感じず、下のキャロットソースによって軽やかな味わいになっています。

サワラの藁焼き

島根産のサワラの藁焼き。柴漬けのように付け合わせがあるのが和食のようですが、真ん中は生でレアな焼き加減で、フレンチの魚料理を想起させます。うっすらとお酢と砂糖を使ったソースがかかっており、お酢は京都のものとのこと。フレンチほどの濃厚さはないのですが、醬油やみりんなど、和食の調味料とは違った味わいが楽しめます。

 

がんもどきと白菜、すっぽんのスープ

がんもどきと白菜をすっぽんのスープに入れた、完全に和食的なアプローチで優しい味わいながら、白菜の甘味やすっぽんの力強さを感じることができます。

 

カモのロースト

フレンチでいうメインはカモのロースト。カモは鹿児島県産とのこと。ちょこんとレバーが乗っており、部位ごとの味わいも楽しめます。しょうゆベースのソースとわさびが和のテイスト的です。

 

ルッコラとカキの炊き込みご飯

ルッコラとカキの炊き込みご飯。カキは江田島のもので、ルッコラは四国のもの。炊き込みご飯に香菜といえば三つ葉ですが、そこをルッコラとし、仕上げにオリーブオイルなのがこの店ならでは。思わずお替りしてしまいます(笑)

 

ジャスミンのアイス

自家製プリンとコーヒー

デザートはどちらも自家製で、淡泊なアイスと濃厚なプリンと味わいの「差」がフレンチのコースらしさを感じます。コーヒーも直前に淹れ、カップにもこだわる徹底ぶりです。

 

牛や豚ではなく、ジビエを使っているのは、自然のうまみのバランスの良さが好みだそうで、和食的なアプローチをするのは、「日本の食材の旨さを引き出すには引き算的なアプローチが良い」という判断とのこと。広島や中国地方、西日本の食材や調味料を使った「自然らしさ」を求める姿勢が感じられます。

 

「イノベーティブ」と呼ばれるジャンルでは、和食手法で使いながらもフレンチらしさを感じることが多いですが、引き算の中に足し算を最小限加えるスタイルは唯一無二ではないでしょうか。広島、特に宮島に訪れるならばぜひ訪れてほしいお店です。