Loafers〜夏の英雄たち

夏といえば、やはり脱ぎ履きのしやすいスリッポン。
代表的なのはやはりデッキシューズやローファーでしょう。

特にローファーは、クールビズであれば、
ビジネスにも使えるドレス感のある靴です。
やはり暑かった今年の夏、紐靴を履くのはどうも暑苦しい……というときに活躍するのが、ローファーなどのスリッポンです。

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今年初頭のセールで購入したエドワードグリーンのフルサドルローファー「バッキンガム」。色合い的に他の季節で使えないことはないですが、やはり夏が一番頻度高く履きました。自分には甲が低く、長時間履いてるとキツくなってくる靴ですが、この夏でだいぶ慣れた……気がします。フルサドルで窓なし、セミスクエアトゥのせいか、ドレッシーさに振られている靴なので、スーツにも合いそうですが、試す機会なくこの靴最初の夏は終わりました。

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同じくエドワードグリーンの「ピカデリー」買って2年が経過、やはり甲の部分の締め付けを感じるとともに土踏まずの部分を押してくるため、いわゆるE.G.らしさを感じている靴です。黒のローファーというのは学校の制服のようなイメージがありますが、夏は軽く履きたい風潮のなかなので、ドレッシーな服装に、それ以外の季節は、カジュアルな服装だけれど、かしこまった感じにしたい時に用いています。

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こちらも買って2年になるチャーチのタッセルローファー「フォスベリー」。スエードは秋冬物、というイメージではなくなったいま、濃いめの色合いであることを活かして、ピカデリーと同じように用いていました。スエードなので、表革より柔らかくカジュアルにはより使いやすいと、考えています。

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こちらは、手に入れて7年目になるグレンソンのローファー。初のローファーがスエードもののおかげか、スエードに対しては表革とは違った思い入れがあります。オーソドックスっぽいようで、フルサドル。スリッポンは文字通り「室内履き=スリッパ」の流れの靴であることを思い起こさせるモデルです。明るいスナッフスエードゆえ活躍期間は、夏を中心とした季節に限られ、オフィスカジュアルな場でもケースによっては…という靴だと思いますが、その分この季節はなくてはならない存在です。

 

そうそう、差し色といえば、ソックスだと思いますが、ローファーとほかの靴では差し色の存在感も大きく違います。

ローファーと、

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サイドエラスティックだと、

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このように見える靴下の面積が違います。もちろん靴モデルよって異なるのでしょうが、同じスリッポンでもこのように違うあたり、サイドエラスティックはやはりビジネスサイドの靴、そして、ローファーがカジュアルらしいのはこうしたところのせいなのかな、と。

ようやく?夏が終わり、秋冬のトラッドな装いが満喫できる季節になってきそうです。

Swing'in the rain

 

雨の日の靴のメンテナンスは「乾かすこと」「油分を入れること」に尽きるでしょう。油分を入れること、に関していえば日常的なメンテナンスとそう変割りはなく、この点に関して変わり映えがあるのは人によって「磨き方」は変わってくるというところでしょうか

雨の日の靴をローテーション上、どうするのか、というのも人によって変わってくるところです。革底の靴であっても関係なく用いるという人もいれば、ゴム底の専用靴を用意する人、ガラスポリッシュなどの革が直接雨に触れないような靴を用意する人がいるかと思いますが、まさに個人の思い次第で、さまざまです。

我流としては、基本的にはガラスレザー、ポリッシュバインダーのような本格的?なところまでは準備しないものの、ゴム底の靴を用意して雨専用として使用しています。
やはり、レザーソールの靴は、雨の日に磨り減りやすいですし、あまり雨が染み込むとコルクや、シャンクなども水に触れることになり、変形する恐れがある、というのは聞いたことによります。また、雨に触れると底ではなく、上の革の表情もあまりよくない意味で変わってくると聞きます。クラックや塩を吹く原因にもなりますし、革自体もへたれていきます。どの靴もお気に入り、ではあるものの、ハレの日の靴などはより長く使いたい、そういう意味では必要不可欠な選択肢です。
ところが、この雨専用靴を持つことによって、この雨専用の靴が傷みやすくなるという欠点があります。
ここをガラスレザーやポリッシュバインダーにすればよいのかもしれませんが、良くも悪くも手入れで左右されるような靴にこだわりたく、もともとレザーソールの靴をオールソール時に転用して、ラバーソールにしております。

 

しかし、革が傷む機会が多いのも事実。
雨に濡れると、白っぽくなる「塩」という現象や、ささくれだす「クラック」という現象に見舞われることもあります。これらは、ちゃんと手入れすればなんとかなるもの。手入れが完璧なら問題ない、という人の中には、雨の日でも、気にせず革底の靴をはくという人もいます。
個人的には先の理由から雨用の靴を用意してますが、メンテはしっかりする必要があります。
いつもは「シュークリーム」くらいしか使わない、シンプルなもの。
半年に1度くらいの頻度に「シューローション(サフィール)」と、「レノベイタークリーム(サフィール)」で、汚れ落とし+栄養保湿をした上での、シュークリーム使用としています。
雨で傷んだ靴は、塩やクラックが出ているような状況になっているので、ローションレノベイタークリームを用いた丁寧なやり方。
シュークリームもいくつか持っていますが、雨の靴には、天然成分しか使っていないという、サフィールノワールのシュークリームをしようすることに。
シューローション→レノベイタークリーム→シュークリームと、それぞれ布にとって、塗り塗りしていきます。

それぞれ塗り終わった段階で30分ほど放置、ブラッシングをします。いつもはクリーム一つなので塗り5分+放置30分+ブラッシングですが、雨の日靴には3段階すべてで待ちとブラッシングをしているので、結構な時間になります。ですが、こうしたステップを踏んだおかげなのか?最近雨用の靴として用いてるグレンソンやミヤギコウギョウ(百貨店向けのバージョン)などから塩をふく頻度が減ってきているように感じます。

せっかくの靴、長く使いたいなら、そのためにはメンテナンスは不可欠。そのメンテナンスも人の数だけ流儀がありますが、自分と靴にあったやり方をさぐる手間暇も面白いものです。

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結婚行進録:夏の京都にて

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結婚式や、その二次会の服装というのは迷うもの。

季節はもちろん、新郎新婦とは親族なのか友人なのか、はたまた友人代表・仲人なのかといった関係性も重要になってきます。

おしゃれにこだわりのある主催者ならば、ドレスコードなんてものも、あるかもしれません。

夏の京都で、ドレスコードありの結婚式がありました。ドレスコードは2つ。「something blue」「べスト着用」。日本の夏は、もちろん蒸し暑く、式場のある京都は盆地ですので日中の気温が高くなる傾向にあります。東京からスーツで汗だくになりたくはない…そして、せっかくの京都ですので、翌日も観光をしたい、という魂胆でいると、荷物はこんな感じに。

①結婚式以外の、旅行に適した服(一泊二日分)

②結婚式の、青系小物とべェストを含めたドレス的な服

さて、①に関しては、ジャケット+Tシャツという装いで、行くことに。旅行では手持ちの荷物は極力減らしたい!ということで、ポケットがあるジャケットがあると、「あれ?財布は…」なんてことになりにくいですし、身軽に動けるというものです。また、結婚式の二次会まで参加することを考えると、ジャケットくらいはあったほうがいいかな、という判断でもあります。ただ、②のようなスーツのジャケットはさすがにジャケット単品で使うことは難しい…というわけで、別のジャケットを用いることに。カジュアルなものとして、青味の強いものを用いることに。夏ですし、白いパンツにすることまでは決めましたが、問題は靴。夏、京都の街を歩き、時には寺社史跡で着脱をすることを考えると脱ぎ履きしやすいローファータイプがベストなのでしょうが、予報は雨…手持ちのスリッポンにゴム底がないため、アンライドのチャッカブーツをセレクト。エドワードグリーン「シャンクリン Shankin」は明るい色のチャッカブーツなので、夏でも使える靴です。

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②は、オーソドックスにネイビースーツにストレートチップと行きたいところですが、式は夕方。本来昼の行事にはストレートチップで良いのでしょうが、買ったばかりであまり履いてないミヤギコウギョウの内羽根プレーントゥを登用。べストはともかく、something blueをクリアするためステファノビジのワンポイントタイを。伊勢丹別注らしく、そしてもはや流行も終わった感のあるワンポイントタイですが、ブルーの色味がロイヤルブルーで、ネイビーほど落ち着きは要らないけど、ブルーほど明るくなくて重宝してます。

シャツはchoyaシャツのワイドスプレッド。艶やかで華のある式典にふさわしい感じ。

 

当日は、雨の予報でしたがあまり濡れることなく、翌日の観光も晴れたなか、観光できました。

せっかく、招かれた式典、節目にふさわしい格好で応じたいと思います。

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進捗5センチメートル:新宿

 

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神楽坂がJR飯田橋駅から地下鉄神楽坂駅までの回廊のような地域を言うならば、広大にどこまでも際限なさそうにみえるのが、新宿ではないでしょうか。

「しんじゅく、にしぐち、えきのまえ~♪」で有名?な新宿西口は、駅前に百貨店、その奥、西の方角に高層ビル群があるエリアです。ヨドバシカメラはその狭間にありますが、「淀橋」の名前は高層ビル群が立ち並ぶ西新宿エリアが「淀橋」と呼ばれていた地名から取られました。淀橋は、神田川を青梅街道が渡る際の橋の名前が地名化したものといわれていており、淀橋区といった区割り制度の時代もあったほどの有名度を誇っていたようです。(地名レベルでは、「淀橋」の他にも「角筈」「十二社」といったユニークな地名がある土地でした。)

 

新宿駅」よりも、「西新宿5丁目」「都庁前」といった駅のほうが近い、ということはありつつも、新宿駅から歩けるこのエリアは新宿の西端といえるのかもしれません。現に、丸の内線、大江戸線の次の駅は、ともに「中野坂上で、中野の地名が入る土地になります。しかし、淀橋浄水場の廃止を境に、一般的な新宿のイメージは大きく西に伸びたのではないでしょうか

 

 

同じようなことは、新宿の南口に対してもいえます。新宿南口には、現在バスタ新宿や、商業施設ニュウマンがあるミライナタワー、そしてその南にタイムズスクエアがあります。このバスタ新宿や、ニュウマンの開業は20163月ということもあって、「最近できた建物」という認識がある人が多いとは思いますが、髙島屋があるタイムズスクエアもまた、20年ほど前にできた場所であり、もともとは貨物駅でした。このタイムズスクエアの南館(紀伊国屋が入っているが、大幅に規模縮小することで話題になりました)は、代々木駅からのほうが近く、代々木駅のドコモタワーが遠めから見るとタイムズスクエアと連なって見えるせいか、このあたりまで新宿エリアらしさを感じる人もいそうです。また、いまはバスタ新宿に移転しましたが、新宿高速バスターミナルもこのタイムズスクエア付近にあり、新宿の高速バスターミナルなのに、別駅が最寄のひとつ、といった位置にあったことになります。

 

新宿南口を走る甲州街道、この道路より南側は渋谷区になるので、バスタ新宿などは渋谷区なのですが、それはあくまで行政区分上のこと。

 

拡大してきた新宿ですが、サザンテラス南館の紀伊国屋は大幅縮小すると一方で、駅近にニュウマンがオープンするなど都心回帰の駅前版のような光景なのかもしれません。

 

 

八雲立つ:神楽坂

尾根の上には有力者が住むというのは古来からの慣わしなのかもしれません。見晴らしが良い、敵に攻められにくい、水害にあいにくい……

江戸時代、赤坂周辺の台地の上の良いところは大名屋敷でしたし、音羽や目白は有名政治家の御殿として名を響かせましたが、どちらも同じ尾根の上にあります。

神楽坂は牛込台地という台地の「坂」.ですが、飯田橋方面から坂を登りきるまで、そうかからず。神楽坂エリアは坂の上でも続いてまして、地下鉄神楽坂駅までの通りを神楽坂の中心軸とするなら、尾根、台地の上の街と言えますでしょう。

ところで、この中心軸、神楽坂の標高の高いところはどこになるのでしょうか。

飯田橋から坂を登り、さらにちょっと登りきると善国寺が、少し下って、信号を渡り、再び坂を登るかたちに。と、歩いていると赤城神社を右手に地下鉄神楽坂駅。さらに進むとLa Kaguが。

このあたりは赤城神社の付近が一番高いのかもしれません。

赤城神社の位置には江戸時代以前、豪族牛込氏の館=城があったそうですから、標高が高いとしたら納得の選択です。

あるいは、西側が同じく高台の上、ということを考えると、赤城神社から東側の文京区方面が急斜面なのが、外敵を考えた際に、方面を絞った備えがしやすかったのかもしれません。

文京区側が急斜面なのは、文京区側の台地:本郷台地と神楽坂:牛込台地の間を流れる神田川が谷を作ったから、なのかもしれません。(『ブラタモリ』早稲田回では早稲田が神田川が生んだ谷間としてしょうかいしていましたし)

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飯田橋駅から神楽坂駅への歩みをそまま早稲田方面に向かおう、今度は坂を下りていきます。これより先は早稲田エリアといえ、やはり標高のある大地の上が神楽坂といえるのではないでしょうか。

ところで、「奥神楽坂」という言葉があるようです。赤城神社やLa Kagu、牛込神楽坂駅エリアのことを言うようですが、何に対して、「奥」なのでしょうか。

つまり、「手前」であったり、「普段立ち入る神楽坂」があっての「奥」なのですから、「奥でない神楽坂」が無意識に、言外に規定されているはずです。

そして、それはもちろん、飯田橋の橋(JR飯田橋駅西口)から、坂を上っていくエリアで、寺社で言うなら「善国寺エリア」のことでしょう。

または、JR飯田橋駅東口から、築土八幡神社のあたりのエリアも神楽坂、と呼ばれているエリアで、西の坂のある神楽坂エリアからは、高低差があり、花街時代の神楽坂の趣きの石畳の路地があり、独特の雰囲気を醸しだしています。坂を上っての商店街だけでなく、裏路地と石畳、黒塗り塀などの瀟洒な雰囲気、こういっところこそが、人が集まり、飲食店が集まり、また人が集まる神楽坂の魅力なのでしょう。

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真夏の夜の靴

 

夏のブーツは、履いているほうも見ているほうも暑苦しいのでブーツ好きやよほどのシーンでない限りめったに履くことはないでしょう。しかし、スエードは秋冬のものという認識から、シーズンに関係なく履ける靴となってきました。スエードはもともとカジュアルなものという認識でしたが、服装のカジュアル化の波に乗って、シーズナブルでカジュアルには使い勝手が良いもの、とした立ち位置に移動したようです。起毛素材ですので、フランネルやツイードなど毛のイメージが前面に出ている秋冬のものと相性がいいですし、スエードそのものが同じようなイメージを想像するため、スエードに対しても、秋冬のイメージが強かったのでしょう。

 

 

しかし、起毛であるということは、やわらかいアイコンであり、表革的な「ぎらつき」がないやわらかいカジュアルな装いに最適なアイテムとして用いられたことが、最近のスエードの通年使用の原因、のひとつかもしれません。

スエードを採用している靴のスタイルは「内羽根」「外羽根」のキャップトゥやセミブローグ、ダブルモンクなどのビジネスシーンでも定番のスタイルだけでなく、ローファーやドラインビングシューズなどスリッポン、チャッカブーツアンクルブーツなどブーツ類も良く見かけます。ビジネスシーンで見かけるようなスタイルも、スエード化するとずいぶんと印象が変わりますが、もともとカジュアルなスタイルであったローファーやチャッカブーツがスエード化すると、カジュアルさはそのままながら柔らかな印象が付与されると思います。ジャケットのアンコン流行、ジャケット素材としてジャージーの勢いが用いられるだけでなく、同じくパンツや、シャツでもジャージ素材を取り入れ、「動きやすい」カジュアル化が進む一方で、コットンスーツやニットタイの復権など、見た目は(ある程度)ドレス要素があるスタイルが注目を浴びているのではないでしょうか。靴においても、ランニングシューズやサンダルではなく、レザーシューズとしてのきっちり感あるシルエットを保ちつつも、表革にはなかった柔らかさがあるのがスエードといえるのかもしれません。

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Repeat after me

――歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」

マルクスブリュメール18日のクーデタ」のこの言葉は、あまりにも有名ですが、なぜに二度目は喜劇(コミカル)になってしまうのでしょうか。

それは歴史として記憶されるような劇的なムーブメントにもかかわらず前例があることによってモノマネになってしまう、からかもしれません。

ヒトラーはドイツではタブー視されていますが、そんなヒトラーが現在復活したらどうなるのか?いまさら70年以上前のヒトラーの復活を信じる人はいない、卓越なる物まねとしてコミカルになってしまうに違いない。映画『帰ってきたヒトラー』では、ヒトラーはそうして人気を博していきます。

ヒトラーの思想や装いはタブー視されているとはいえ、笑いを許容できないのかといったことなのでしょうか、むしろいままでにないチャレンジングな笑いとして案外すんなり受け入れられます。その作中世界を観ているわれわれ視聴者は、生き返った(または時代を飛ばされた)ヒトラーがそっくりさんだと思われて受け入れられたり、現代社会・文化になじめないヒトラーの状況に対して、笑いを起こす。「ヒトラーモノマネ芸人として作中世界に受け入れられる一方で、70年間前から蘇り時代錯誤な動きをするホンモノの「ヒトラー、作中の受け止められ方と、視聴者の受け止められ方はややずれるものの笑いが起きるという点では同じつくりをしています。

このコミカル具合に拍車をかけているのが、過去のヒトラー登場作品にまつわるパロディでしょう。ネット動画パロディ・N次創作として有名な『最後の12日間』のパロディシーンでは、少なくない数の笑いが劇場から響いたと聞きますし、冒頭でもヒトラーが「ホンモノ」らしく「これまでの自分役の映画評」を語るというシーンがあります。また、まだ駆け出しの「芸人ヒトラーとプロデューサーが一文無しになり、「復活前」政治家の前に画家を経験しているヒトラーがヘタウマな絵を描いて稼ぐ、といったシーンがあり、笑いを誘います。

こういった笑いは、もちろん観客目線の笑いネタですが、笑えるネタをちりばめておくことで、作中「ヒトラーネタ」で大ウケする芸人のネタを笑える下地づくりになっているのではないでしょうか。ヒトラーがコミカル、ユーモラスであるいう印象を与えます。

しかし、ヒトラーのコミカルでない箇所―政治的野望を感じされる箇所―もまた、たびたび登場します。たとえば、「芸人」のドイツ道中、芸を披露することよりも、映し出されるのは、EU下での不満を感じるドイツ人との交流です。なにかしら不満を持っていることはどこのどの人にもあるでしょうが、現在の政治に関しての大きな不満が移民というトピックであることヒトラーは気づきます。

 

そんなヒトラーが人々の不満を聞いて自分の味方としていく姿は、第一次世界大戦後のドイツが不満をためていくなか、不満の解決役としてヒトラーが躍り出た状況ととてもダブります。政治不信・移民不満といった問題を理解できる・解決できるのは自分であることをアピールしていくことで、人々の指導者としての地位を確立していきます。

こうした草の根運動をおこなう「芸人ではなく政治活動家であった彼の芸人らしさが発揮されるのは、テレビの前で、でした。現代、SNSの交流などは活発ですが、彼が登場して大きく話題化する媒体はテレビなのです。そこには同じフィールドで突っ込みを入れる人もいません―スタッフや出演者との駆け引きはあるにせよ、テレビ側と視聴者は明確に分かれ、SNSで閲覧する他のユーザーから「横から失礼」されることもない―し、動画で用意に発言できる媒体として最適だったといえるでしょう。もし、これがSNSからの発信だったら「なんでも叩く人」や、「良識派」みたいな人に批判されて賛否両論といった空気にもなるかも知れません。まあ、そんなテレビでも失敗をし、批判されるのですが、逆にSNSでしたらここで「信者」と揶揄されるような人の擁護がされるでしょう。

また、ここでつまずきを描くことでそれを乗り越えた時の一体感を感じされる効果があるのではないでしょうか。

散りばめられた笑いとメディアの特色を捉えることによって単に笑いだけでなく、政治的警鐘の意味も持つ作品になったのではないでしょうか。

また、最後のオチを作中作のオチにするところで虚構を超えてきていると思わせる作品です。

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