ブラタモリ学

六本木で、知名度は六本木のヒルズの陰に隠れがちですが、比類する巨大さを持つ複合施設東京ミッドタウン。ここがむかし大名屋敷であったことは『ブラタモリ』六本木回を観たことがある人ならご存知でしょう。f:id:thumoto:20150912205310j:plain

NHKで人気の『ブラタモリ』。東京のさまざまな土地を巡るのが好評だったようで、現在、舞台を全国に拡げて放送しています。1stシリーズと2ndではやや趣きがかわり、賛否両論あるみたいですが、とても面白く毎回観ています。

このシリーズの違いはそれだけコンテンツとして取り上げられる東京の巨大さを浮き彫りにしていると思うのですが、主な語られる歴史が江戸幕府以降でしかない東京の歴史性もまた考えさせられます。

アイデンティティー。観光だけでなく都市として存在感を示す時には必要なものでしょう。秋葉原、原宿、渋谷のような、戦後のカルチャーももちろん強みのアイデンティティーですが、やはり東京の前にあった江戸や戦前のモダンな東京がどうあったのか、それをどう接続するのか?が重要ではないかと、個人的には思います。

あるいは江戸幕府開府400年を迎え国際化がより進行する一方で、いままでの経済成長的な、「モノを造れば売れる(もちろんたんに売ってるだけではないかもしれません)」時代からの転換の一つとして、「いままでの歴史の接続・模索」を考えるにあたっての振り返り。そうした動きのテレビ番組化が『ブラタモリ』なのかもしれません。少なくとも個人的な興味としてのブラタモリはそういった要素が大きいものです。

 

こういったブラタモリ的考証をいままでに学会なのではなくしていた人はいなかったのでしょうか?

そういった本の一つに陣内秀信『東京の空間人類学』があります。この本では、江戸期の街並みはいかに誕生したのか。明治期の街が江戸時代の区画にいかに沿ってできたか、明治・大正期に西洋的街並みに日本にどう輸入されたか、と変遷が記されています。たとえば、先ほどの東京ミッドタウン。まだ出版当時はミッドタウンはできていませんが、この敷地は帝国日本陸軍防衛庁の駐屯地でした。その前の大名屋敷であることは前に書いた通りですが、こういった大名屋敷からその後何になったかの変遷を丁寧に追っており、想像する以上に街の区割りとして江戸大名屋敷が現在に息づいているのが確認できます。また、そもそも大名屋敷がなぜ、この現・六本木駅乃木坂駅の間にできたのか、といったことにも迫ります。

また、東京の水辺からの風景を取り上げていることも特徴的です。普段意識しませんが、江戸は外堀や隅田川での船網があったのです。鉄道が本格的に使用されるまでの有力な交通機関であった船からの視線を意識した街並みや風景がそこにはありました。この本ではそういった足跡を示してくれます。

何も伝統にがんじがらめになる必要はまったくありません。一方で街や土地、文化を考えるといままでどういった文脈があるのかそしてそれどう引継ぎつぎのカタチをつくっていくのか、ということを考えるのは重要です。

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そうした東京のありかたの思索や東京以外の土地の探求の手法を学ぶにあたってとてもオススメの本です。