紺と黒:スーツの色と柄から
『赤と黒』というフランスの古典小説のタイトルは、赤が軍服を、黒が聖職者の服を表していると言われています。
現代で特定の色が職種を表すことは稀ですが、ファッション規定がお固めの職場と柔らかめの職場では着られている服は違いますし、ひいては「業界別着こなし」と言ったものが載った「新社会人向けムック」もあるように、業界別の装い:「業界のいろ」があったりするわけです。
日本では黒のスーツがリクルートスタイルの大勢を占めている一方で、「本来、ネイビー系かグレー系で」と言われる言説を聞いたことはあるかもしれません。実際、欧州の会議の写真などを見るとほとんどが、黒のような濃いネイビーのスーツです。
ブラウンスーツが流行りと言われていますが、ブラウンやオリーブと言った自然の色は非ビジネスの色と言われています。
オフの日に着るスーツなのですね。
オフの日にまでスーツと聞くとなんだか違和感がありますが、例えば20世紀初頭の貴族生活を描くドラマ『ダウントン・アビー』で、貴族はもちろん領民の人々もスーツを着ています。日常的に農作業や牧畜に従事する人が着たり、貴族が乗馬や狩猟で着るのがブラウンツイードだったり、オリーブの色味のスーツだったりするのです。
この時代、スーツはむしろ日常の服であり、貴族が来賓を迎えたりするのは燕尾服であったりするようです。
現代、スーツがすでに特別な服という人も決して少なくない時代、昔のプロトコルでは、カジュアルだったスーツも、日常の仕事着としては適切なレベルだから、でしょうか。ここ数年チェックやネイビー・グレー以外の色がもてはやされているのもなにかわかるものがあります。基本とスーツとして無地のチャコールグレーやダークネイビーが推奨される一方で、それよりカジュアルめいていながらもスーツであるチェック柄やグレー・ネイビー以外の色が中上級者にオススメされてきたのは、スーツ内でカジュアルだった柄や色の復権なのかもしれません。
もともとオフィシャルな場でふさわしいとされてきたのは、グレーまたはネイビーのスーツ、白か淡いブルーのシャツ、黒の革靴、と、見事に紺系統か黒系統の色のみです。タイをカラフルにする人はその色の抑圧に物足りなさを感じたからこそでしょうし、タイをグレー・ネイビーで揃える人はシックな装いが好きなのでしょう。
個人的にはブラウンスーツより、ネイビー系のチェックスーツの方がビジネスという感じを受けますが、カジュアル化の波で変わっていく印象なのかもしれせん。