装物語:『相棒』杉下右京

実写映画やドラマは、マンガ・アニメなどよりもファッションという点で参考にしやすいところでしょう。もちろん、現実にはないファンタジーな世界のものもありますが、現実と地続きな作品であれば、「リアル」なファッションであるわけです。

他方で、キャラクターとしての確立:「キャラ立ち」も大事ですので、ファッションには、登場人物ごとに色や装いの系統で統一性が求められることが多いのかもしれません。現実的な問題として、ファッションには着回し/コーディネートという点や、単調でなく複数あるスタイル(オンとオフ、とか)を持つ!ということが求められたりすることが多いですが、むしろそれによるキャラ崩壊を恐れるパターンが多いような気がします。トム・フォード氏がグレースーツばかり持っている有名な逸話がありますが、それに近い気もしますね。

スーツを着る男性サラリーマンが登場する・そういった職場が舞台の映画・ドラマであると全員似たようなスーツ!と思いがちかもしれませんが、ファッションでのキャラ立ちはあるようです。

例えば、『相棒』という刑事ドラマ。こちらでは、杉下右京という窓際部署ながら非常に頭の切れるいわくつきの刑事とその相棒が主人公ですが、ファッションという視点でみるとドラマエピソードとは違った視点で印象的です。

 

杉下右京が英国文化好きなのは、英国へ休暇で旅行に行ったり、英語で書かれた本を読んでいたり、紅茶を愛用していたり、あるいはサスペンダー姿(英国風に言うなら、ブレイシーズが正しいのでしょう)でオフィスにいるところを見るとわかると思いますが、ブレイシーズ以外で、ファッションにおいても英国の非常にトラッドなところに影響を受けていると思われるのが、そのスーツ。

初期の段階を除いて彼は、3つボタンのシングルブレステッドのスーツを着ています。特筆すべきはそのスーツが段返りの3つボタンではないことです。3つボタンの3つのボタンのうち、上2つを留める仕様は、学校や鉄道などの制服でしかほぼ見ないのではないでしょうか。現在、吊るしのスーツで出回っている3つボタンの非常に多くが、段返りという、3つボタンの真ん中だけ留める仕様のスーツです。また、「トレンド」という文脈で語っても、段返りの3つボタンが主流でしょう。微妙に、ラペルのロール具合が変化しているとか、同じカタチの2ツボタンよりも微妙にVゾーン(スーツのネクタイとシャツが見えるV字のゾーン)が狭い、そういった雰囲気が段返りの魅力とするならば、杉下右京のスーツはカッチリな趣でしょう。

また、ポケットチーフも全てに統一感が見られ、パフドスタイルと呼ばれる丸めたようなチーフの入れ方です。ここはキッチリめなTVフォールドではないようです。スーツの柄は無地が多いようですが、最近はトレンドを意識してか、チェックのスーツなども見受けられるようです。(最も直近のシーズンでは杉下右京の持ち物ではないスーツを彼が着用するエピソードがあり、そのスーツがダブルブレテッドのウェストコートを含んだ3つ揃えという時流に乗ったファッショナブルなものでした。そういった点では、ファッショナブルさをこのシーズンだけ意識している・いた、のかもしれません)

コートについても、ダブルかシングルのチェスターコートを愛用しているようで、色も黒・グレーの無地といったトラッドなものです。ネクタイは黄色系か、赤系、ベージュ系、青系とさまざまで、柄も、チェック柄やストライプなどさまざまです。シャツは白がほとんどですが、薄いブルーのときもまれにあり、イギリスではよく着られる格好ですので、英国トラッドの影響かもしれません。シャツの襟のかたちは基本的にレギュラー~セミワイドのようで、このあたりもワイド~ホリゾンタルのような最近、ここ10年の流行り、あるいはムーブメントとは無縁のようです。

靴もスーツに合わせてか、内羽根の靴が多いようですが、ロンドンの金融ビジネス街、シティでは黒靴を履いたものしかいないと言われるのと違って、茶色の靴も履いているようです。

 決して、「いま風」の格好ではないゆえ、ともすると古臭く・野暮ったく見えますが、スタイルとして確立しているからこそ、安定感があります。この安定感こそ、杉下右京というキャラクターの要かもしれません。

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