空気のように軽いもの

履物といえば、靴ですが、短靴というからには長靴があるわけで、ブーツは存在感あるジャンルなわけです。靴の歴史としてさまざまなエピソードがありますが、こと日本において語られているのは最初にブーツを履いた坂本龍馬とそのサイドゴアブーツでしょう。

サイドゴアブーツ、よくわからない存在です。もともとビクトリア女王のために造られたタイプのブーツとのことですが、彼女の夫アルバート公爵が議会登院時に使用していたことから、大日本帝国ドレスコードでも正装で用いられる靴として指定されていたようです。(たとえば、1873年の「陸軍武官服制」には士官の正装の靴が定められていようです。)

しかし、現代においてブーツは正装には用いられなくなりました。一方で、ビートルズなどのアーティストが履いたことによりカジュアルな服に合わせる風潮もあります。(サイドゴアブーツの別名であるチェルシーブーツは彼らが集った地区の名前です。)

こうした推移の中、いかようにもあいそうがゆえにどこのシチュエーションに、とは当てはめがたい自由さと難しさがあります。

しかし、モッズよりもトラッドな装いが好きな者もして、トラッド文脈でどう使うかを考えますと、多くはデコレーションなしのプレーンな表情のものが多く、スーツの無地のように格式高く使える点、坂本龍馬が愛用したエピソードのように楽に使える点からサイドエラスティックのブーツ版のように遣うのが良いのではないでしょうか。

 

個人的には3つも持つほど好きなタイプのブーツです。

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1足目はグレンソン。最近リブランドしましたが、それまでのグレンソンのモデルはよくセールにかかっている割には、よく造られた靴で、同価格帯のクロケットアンドジョーンズみたいなブランド名の輝きはなくとも、密かに人気を集めている靴だったようです。トゥがややスクエアになっており、ジーンズから、スーツまで幅広く使っています。

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こちらの三陽山長のものは、ダークブラウンスエード。底がオリジナルのゴムソールで路面で滑ることがなく雨の日も安定して履けます。木型は絞っており最初は少し窮屈な感じもしましたが、いまやジャストフィッティング。個人的にはメーカーとイコールのブランドが好きなこともあり、日本製でもあまり手にしてこなくかったブランドで、実は初めてのこのブランドの靴。ですが、これを手に入れてその考えを改める必要がありそうだと、いまは思います。

スーツにも合わせられますし、休日のちょっと格式高くおしゃれにしたい時にはもってこいの靴です。

 

 

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そして3足目がこの靴。ミヤギコウギョウがWFG向けに展開しているmiyagikogyoの2015 A/Wの新モデルです。サイズはベニバナ他のミヤギコウギョウよりもハーフサイズ下のもの。ヒール部分以外継ぎ目のないワンピースのサイドゴアブーツなのが特徴です。

モデル名は「クロユリ」。花言葉は「愛」と「呪い」という両極端。日本文化のなかでは、あまり縁起の良い花ではないようで、富山県にはシェークスピア「オセロ」に似たような「黒百合伝説」があるそうです。

グレンソンのものよりも、アーモンドトゥでクラシックですが、丈はかなり短めで、アンクルブーツです。

このブーツがこれからどう育っていくか楽しみです。

 

「空気のように軽いものでも、嫉妬する者にとっては聖書の本文ほどの手堅い証拠になる。」と『オセロ』にはありますが、身にまとっているものが一見なんでもないようでよく見ると凝っているといった装いを目指すとき、こういった靴が活躍してくれそうです。