物語が隆起する

物語に必要な要素として、当たり前ですが、場所が必要です。

異世界を始め、まったくの架空の空間のこともあれば、実在する場所を元につくられた架空の空間、実際ある地名が元になることもあります。

聖地巡礼」と言われている観光スタイルで当てはまるのは後ニ者でしょうか。実写ドラマや映画はどうしても撮影地が必要なため、聖地が非常にうまれやすいですよね。(一部の人にとって、)あまりにも有名な場合は、それがその土地のブランドになることもあります。豊郷町立豊郷小学校は『けいおん!』の作中学校のモデルとして、登場したことがあり、作品好きな方々にとっては、「単なるレトロな学校は学校」ではなく、キャラクターたちが駆け巡った土地なのでしょう。同作品の日常パートは京都が参考にされていると聞きますが、そのアンバランスさも興味深いところです。

Baker Street221B、あるいはベーカー街、といえばシャーロック・ホームズ。世界中のミステリ好きが集まることで知られるこのストリートには、シャーロック・ホームズの記念館もありますが、実際にコナン・ドイルが書いた当時に221という番地はなかったそうで、現実に基づきながらも架空の空間を作り上げたのかもしれません。

シャーロキアン」と呼ばれるシャーロック・ホームズ好きの方々には、「シャーロック・ホームズシリーズを事実として捉える」という遊びや研究をされている方々がいます。彼らの中には「(作中においてはシャーロック・ホームズの冒険譚を彼から見聞きして『事実』集を書いた)ジョン・ワトソンは、シャーロック・ホームズのプライバシーや迷惑がかかることを懸念して、あえて彼の住所を架空のものとした」と措定し、当時の221Bとはどこなのか、を探すゲームをしている人たちもいるようです。このようなシャーロキアン的なファン活動は、日本のオタク的な聖地の特定などに親しいものを感じますね。

もちろん、豊郷小学校もベーカー街も、実在しないキャラクターがフィクション上で居た場所です。それは、現実ではないよね、と言ってしまえば身も蓋もないのですが、魅力的なキャラクターたちが活躍した物語と、現実との接点として「聖地」があり、ムーブメントや観光地として成立するほど人々を惹きつけている。そして、その土地にそういった魅力があるというのは揺るぎない現実です。

治安が良い、アクセスが良いという土地への評価は実利的な視点だと思いますが、伝統的、あの●●が住んでいた、好んでいた場所といったような土地への評価は聖地的な視点だと思います。そして、その聖地的な視点こそが、実利をそこまで重要視しない志向の新天地探しをしている人や、観光として訪れる場所の要素として、決して見落とせない視点だはないでしょうか。f:id:thumoto:20150829182904j:plain